台無しになった午後でも海は取り返せる - 久里浜から金谷へ東京湾フェリー弾丸横断

仕事で崩れた休日の午後、柏から久里浜へ急行し、出港前に海岸へ駆け込んでから東京湾フェリーで金谷へ渡ったプチ旅の記録。

フェリーの真下に見えた青い海

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水曜の午後、その日の計画はすでに壊れていた。

本当は朝から別の旅に赴くつもりだったのだが、どうしても午前中に急遽対応しなければならない仕事が発生してしまった。しかも昼飯を食べてうとうとして、気付けばもう14時前後。このまま一日を終わらせるのは、いかにも惜しい。

そこで半ば意地のように考えたのが、今回のプランだ。

柏から久里浜まで一気に下り、18時15分発の東京湾フェリーに乗って金谷へ渡り、帰りは千葉側から内房線で戻る。観光というより、午後から無理やり休日を再構成するためのルートである。

結果としてこの判断はかなり良かった。仕事とドカ食い気絶で崩れた休日は、船に乗ったことでちゃんと旅へと立て直された。

午後からでも海へ向かうと決める

先に綴った通り、今回の旅は最初から綿密に組まれていたわけではない。むしろ逆で、崩れた計画の残骸から、その場で拾えた一番面白そうな線を繋ぎ直した感じに近い。

久里浜18時15分発の便に間に合うなら、まだ明るいうちに東京湾を渡れる。しかも、久里浜から金谷へ抜ければ、行きと帰りで海と鉄道の両方を回収できる。

「近場だし、午後からでもどうにかなるだろう」と思っていたのだが、実際に走り始めると、移動距離の長さがしっかりと効いてきた。柏から品川方面へ出て、さらに京急で久里浜まで下るだけでも、実はそれなりにちゃんとした遠出だ。

ただ、この時点ではもう、疲れるかどうかより「今日を空振りで終わらせたくない」という気持ちが勝っていた。

京急久里浜まで押し流される

京急の三崎口行きはかなり混んでいた。1時間近くの乗車を立ちっぱなしで耐えるのは、午後から思いつきで出てきた身体にはそこそこ堪える。

横浜、上大岡、金沢文庫あたりで少しは楽になるかと思ったが、結局3駅手前くらいまで席は空かなかった。ようやく座れたと思った途端、今度は強烈な眠気がくる。ここで寝過ごしてしまったら本末転倒なので、すぐに立ち上がる羽目になった。

京急久里浜に着いた時点で、フェリーまではまだ少し余裕があった。急いで飛び出してきたせいでインナーを着忘れていたことを思い出し、駅直結のウィング久里浜でエアリズムのシャツを購入。その場で着替えて、ようやく人心地ついた。

17時過ぎ、駅から久里浜港へ向かって歩き始める。

久里浜港の東京湾フェリーターミナル付近

久里浜港に着いたのは17時34分。18時15分発の便まではまだ少しある。運航状況を見ると、この日は「Bダイヤ」というダイヤでの運航となるそうだ。

出港30分前、海岸へ走る

まずは乗船券を買う。

東京湾フェリー久里浜港の乗船券

チケットを確保した時点で、出港まで30分ほど。ここで待合に留まっていても良かったのだが、どうせ久里浜まで来たなら、ちゃんと波打ち際までは行っておきたかった。

そこで、港のすぐ近くにある久里浜海岸へ急行した。

出港前に立ち寄った久里浜海岸

滞在時間はかなり短かった。ほとんど「走って行って、海を見て、また走って戻る」に近い。

それでも、砂浜の先に広がる灰色がかった海と、港の赤い構造物、静かに寄せる波を前にすると、「ああ、今日はちゃんと海まで来たのだな」と急に実感が出てくる。

久里浜海岸の波打ち際

寝坊で崩れた休日を午後から救済する旅なので、本来ならもっと余裕がなくてもおかしくない。それなのに、出港前の30分でちゃんと海岸へ寄り道できたということが妙に嬉しく、この時点から謎の達成感に満ちていた。

18時ちょうど、ほぼ予定通りターミナルへ戻る。目の前にいる船は、思っていたよりもずっと「ちゃんとした船」だった。

久里浜港に停泊する東京湾フェリー

東京湾フェリーは、思った以上にしっかり船だった

東京湾フェリーという名前から、どこか「移動手段としての船」を想像していた。もちろん実際にもそうなのだが、いざ乗り込んでみると、それ以上にちゃんと「船旅の場」になっていた。

外部デッキにはベンチとテーブルが並び、潮風を浴びながら過ごせる。

東京湾フェリーの外部デッキ

船内に入ると、売店や客室もあり、想像していた以上に滞在の余地が広い。単に40分で海を渡るだけの乗り物ではなく、短時間なりの船上時間をちゃんと楽しめる設計になっている。

東京湾フェリー船内のラウンジ

乗客は多すぎず少なすぎず、夕方の便らしい落ち着いた雰囲気だった。出港前の港を眺めているだけでも、旅に切り替わっていく感じがある。

久里浜を出た瞬間、この日の核心に入った気がした。

夕方の東京湾を横断する

東京湾を船で横切るというだけで、移動がそのまま景色になる。

電車や道路での移動だと、通過している土地はたいてい「途中」になってしまう。けれど船は、移動している時間そのものが主役になりやすい。と、個人的には思う。海の上では、ただ進んでいること、ただ海を眺めていること自体がとても面白い。

しばらくすると、航跡がまっすぐ後ろへ伸びていくのが見えた。

久里浜を離れていくフェリーの航跡

午後から無理やり組み直した休日が、こうして海の上で一本の線になっていく感じがした。地図の上で見ていた久里浜と金谷の距離を、自分の身体でちゃんと横切っている実感がある。

空は完全な快晴ではなかったが、むしろそのおかげで、海面や雲の色がじわじわ変わるのがよく分かった。明るい灰色だった海が、少しずつ濃くなり、金谷側に近付くにつれて思った以上に青さが増していく。

それがいちばんはっきり見えたのが、船の真下にできる白波だった。

フェリーの真下に見えた青い海

「東京湾もこんな澄んだ色になるのか」と少し驚いた。沖へ出るに従って、ただの灰色ではなく、青と緑の成分がちゃんと見えてくる。午後から飛び出してきただけのプチ旅にしては、ずいぶん良いものを見られてしまった気がした。

対岸の房総半島がだんだん近くなってくる。

房総半島へ近づく夕方の海

久里浜から金谷へ向かうこのルートは、距離だけ見れば決して長旅ではない。それでも「海を渡っている」という事実があるだけで、心理的な遠さはかなり変わる。半島へ向かっているのだという感覚が、電車移動よりずっと強く立ち上がってくる。

金谷港から浜金谷駅へ急ぐ

19時頃、金谷港へ到着。

金谷港へ近づく夕暮れの港

港の背後には山があり、久里浜側とはまた違う輪郭の景色が見えた。房総へ来たのだなという感じが、この時点でかなりはっきりする。

ただ、のんびり景色に浸ってばかりもいられない。浜金谷駅から千葉・木更津方面へ向かう内房線は本数が少なく、一本逃せば次は1時間後だ。今回は到着間もなく出発する19時14分の列車を狙う必要があった。

つまり、金谷到着後の行動は実質ほぼ決まっている。観光らしい観光はせず、最短で浜金谷駅へ向かう。

本当はこのあたりをもう少し歩いても良かった。フェリー乗り場周辺には案内板もあり、駅から海までの距離も近いように見えた。

金谷港周辺のフェリー案内板

浜金谷駅のホームへ移動するため歩道橋へ上って視線を高くしたところ、ちょうど空の一部だけが淡く赤く残って見えた。

浜金谷駅のホームに残った夕焼け

君津で途中下車して、少しだけ夜を歩く

浜金谷から内房線に乗り、帰り方を調べていくうちに、君津で始発の直通列車を待てば座って帰れそうだと分かった。単純に早く帰るルートもあったのだが、この日はすでに京急の立ちっぱなしと港までの往復でそこそこ疲れていたので、ここは素直に座席を優先することにした。

その結果、君津で50分ほど待ち時間が発生する。

ならば少し歩いてみようと思ったものの、駅前に「これだ」という場所があるわけでもない。結局は20分ほどトボトボと夜道をあてもなく歩き、また駅へ戻って、待合室で西園寺チャンネルを見てゆったりと過ごした。

午後からでも休日は取り返せる

今回の久里浜〜金谷プチ旅で一番良かったのは、「もう遅いかもしれない」と思った時刻からでも、ちゃんと旅は始められたことだった。

急な仕事が舞い込み午前の計画が崩れて、半ば投げやりに海へ向かった。それでも、久里浜でチケットを買い、出港前に海岸まで走り、東京湾を船で横断して、金谷から内房線へ乗り継いで帰るところまで全部繋がると、一日は十分すぎるほど新鮮さに満ち溢れた旅となった。

しかも今回は、目的地そのものより「移動の形」が面白かった。柏から久里浜まで電車で押し流され、そこから船で海を渡り、最後はローカル線で千葉側を戻る。近場の移動ばかりなのに、交通手段が一つ変わるだけで、日常の輪郭がずいぶん変わる。

午後からでも休日は取り返せる。

そして、東京湾は、横断するだけでかなりちゃんと旅になる。


「移動を楽しめば、それはもう旅」

西園寺チャンネル

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